カリブ海に浮かぶ島国
ハイチを襲った大地震による死者は
内相によると20万人にも及ぶという。

生き埋めになった方の生死の分かれ目は
72時間がひとつの目安になるという。
昨日、そのデッドラインが過ぎた。
罹災者の精神的ショックは計り知れない。

15年前の今日
神戸を大地震が襲った。
まるで昨日のように思われるが
あれからもう15年もの歳月が流れているのか…。

あの頃のぼくは駆け出しの編集者で
夢と希望を抱いて
仕事漬けの日々を送っていたが
焼け野原となった神戸の映像を見て
生と死というものを深く考えさせられた。

だから今でも
神戸大震災のニュースを見ると
新米編集者時代を思い出すのである。

さて、昨夜というか
日付が今日に変わった夜半。

「鱒の森」を校了したぼくは
川崎の自宅へどうにか帰ることができた。

わけあって
今年に入ってから
カミさんと子供は実家に帰っており
現在は一人暮らしを満喫している。
といっても実際は
寝に帰るようなものだが。

誰もいない木造一戸建ては寒い。
帰宅後すぐ、居間の暖房を付け
風呂を沸かし
2階の寝室の暖房を付けに行こうとしたところで
異変に気づいた。

階段にガラスが散乱しているのである。

すわっ、泥棒か!?

しかし、現場を見るかぎり
どうやら壁に掛けてあった絵画が
自然に落ちて額が割れたらしいことがわかった。

「帰宅できたのでビールでも飲もうかと思っていたのに」

と愚痴りながらガラスを拾い
掃除機をかけた。

どうせだからと
居間も掃除機をかけていると
バチンという音とともに真っ暗になった。

なんだ、大地震でも来たか!!
と一瞬思ったが、ブレーカーが落ちただけのようだ。

さて、困った。

真っ暗闇である。
ブレーカーはどこにあったっけ?
一家の大黒柱なのに
ブレーカーの場所すら知らない自分が
情けなくなった。

よし、こんなときこそ懐中電灯だ。
え〜と、どこにあるんだっけ?

「いい、懐中電灯はここに置いておくから。万が一のときはお願いよ」
とカミさんに何度か言われた記憶があるが
その場所がどこだったのか思い出せない。

そうだ!
こんなとき喫煙者は助かる。
ポケットにライターがあるじゃないか。
とライターを取り出し着火すると
一瞬明るくなるがすぐに消えてしまう。
そういえば、ガスがほとんど入ってなかったっけ…。

何度か着火を試みたが
ついにライターは反応を見せなくなった。

暗闇がぼくを包み込む。
ぼくは、自分が不安に駆られていることに気付いた。
落ち着け、ここは家だぞ。

いつだったか険しい地磯に夜釣りに行き
懐中電灯の電池が切れたときだって
月明かりを頼りに車まで戻ることができたじゃないか。

あっそうだ!
ぼくは手探りで隣室に行き
クローゼットの中にある磯バッグに手を伸ばした。
中をゴソゴソやっていると
ヘッドライトらしき物体に手が触れた。

ヘッドライトを取り出し
カチッとライトをひねると
明かりが灯った。

これでブレーカーの場所を見つけることもでき
何事もなかったかのように家は明るさを取り戻したのだった。

わずか10分程度のことだったと思うが
大地震に襲われたりしたら
あの状態がきっと何日も続くのだろう。

日頃から、いかに文明の利器に頼り切っているのかを痛感し
万が一のときの備えは万全にしていなければならないと
思いを新たにしたのだった。

いや〜、恥ずかしいことですが
ライターが消えたときは本当に不安になりました…

(山根)