学生時代、夜釣りに行く際に
いつも通っていた国道沿いに
心霊スポットがあった。

廃墟となったS原病院で
テレビの怪談企画や、その手の雑誌にも度々出るくらい有名だった。

ある晩
霊感がすごく強いというウワサの女友達を
S原病院に連れて行ってみようという話になった。

彼女は色白で長身、スレンダー。
髪の毛は漆黒で腰くらいまであり
その気になればモデルにもなれるだろうと思われるくらい美人だった。
声も低く近寄りがたい感じがするが
笑った顔は可愛らしかった。
どういうわけか男はいなく
みんな虎視眈々とねらっていた。

心霊スポットめぐりの話を切り出すと
最初は気乗りしないようだったが
ドライブがてらちょっとだけでいいからと説得して
来てもらえることになった。

情けないことに
ぼくも友人たちも、それまでは怖くて廃墟の奥まで入れなかった。
だが、エスパーガールが一緒だと心強く
彼女の後を追ってズンズン入って行った。

S原病院の中はいい感じで荒れていて
どこから幽霊が飛び出してきてもおかしくない状況。
ああっ、あの時、彼女の背中が大きく見えたことといったら!

ひととおり見て回ってから
「ゼ〜ンゼン、なにも感じないよ」
と彼女。

すごい展開を期待していただけに
同行の野郎どももこのままでは引き下がれない。
まだ日付も変わっていない時間だったので
エスパーガールと周辺の心霊スポットを巡ることになった。

×××墓地、××トンネルなどに行ってみたが
彼女はいたって冷静。

「なんだか拍子抜けだな。
まあ、何も起きなくてよかったといえばよかったけど」
ぼくらは、どこか満たされない気分で帰路についた。

途中、「サリーちゃんの館」という軽いネーミングの心霊スポットのそばを通るので
せっかくだからそこに寄って帰ろうとなった。

サリーちゃんの漫画に出てきそうな館が林の中にあり
誰も住んでいないはずなのに夜更けになると電気が付く
などといわれていた。

住宅街の中の小高い丘の上にあるということもあり
S原病院や×××墓地にくらべると
全然怖くない。

ここで初めてこの晩
野郎どもが先頭を歩いた。
丘の頂に上るための階段を上がっていると
「私、止めておく」
と背後からエスパーガールの声。

今までの彼女の声とは明らかに違う
悲痛な声だった。
彼女は無言で上ってきた階段を降りはじめたので
ぼくらも慌てて付いていく。

道路に出ると
彼女の青白い顔が外灯の明かりの中に浮かび上がった。
「悪いことは言わないから、ここは止めておいたほうがいいよ」
その後、彼女は一言も発しようとしなかった。

その晩は
彼女を自宅まで送り届けて帰路に付いたが
何かが憑依したのではと心配だった。
それから数週間後に彼女に会ったが
いつもの彼女に戻っていたので安心した。

その後も、何度か彼女と会う機会があったが
あの晩、何を感じたのかは決して教えてくれなかった。
いまだにナゾである。


というわけで
現在発売中の月刊つり人9月号にも
毎年恒例、「水辺の怪談」が載っていますので
この手の話がお好きな方はどうぞ。

でも、夜釣りに行く予定のある方は
ご遠慮ください…。

(山根)