ある女性の胸元に視線が釘付けになった。

デカいとか、美しいとかではなく
胸元の名札に。

「鮎瀬」
という二文字が
アユ釣り好きのぼくの瞳を一瞬にして奪ったのである。

仕事柄、いろいろな人に出会うが
「鮎瀬」という苗字は初めて。

反射的に
「素敵な名前ですね。なんて読むのですか?」
と聞いてしまった。

「あゆせ」ではなく「あゆがせ」と読むそう。

日本には3万本以上の川が流れているといわれるが
川はふつう、瀬、淵、瀞(とろ)を繰り返す。

川漁が盛んだった地では
それぞれの瀬や淵に名前が付けられている。
「馬洗いの瀬」、「釘締めの瀬」、「戦の瀬」
といった具合だ。

「あゆがせ」というくらいだから
アユがよく捕れた瀬があり
その近くで暮らしてきた人たちなのだろう。

聞いてみると
栃木県の那須出身だそう。

栃木県那須郡を潤す川といえば
今や日本イチの天然アユ河川ともいわれる
那珂川である。

「鮎瀬」さんは30代と思われたが
幼いころは祖父に連れられて
那珂川でよくアユを捕ったとか。

ちなみに、「鮎瀬」ではなく「鮎ケ瀬」という苗字もあるのだとか。

(山根)