清流の女王、アユの寿命は一年。

春、5センチ足らずの大きさで川をソ上し始めたアユは
川底の石に付く珪藻類を主に食べながら
上流を目指す。

そして、秋になると産卵する。
親魚の大きさは河川により異なるが20センチ程度。

わずか半年間で、4〜5倍に成長するのだ。

石に縄張りを持って珪藻を食み始めたアユは
1日のほとんどを食べる時間に費やす。
食べて食べて食べ続けなければ、短期間で4〜5倍に成長することはできない。

だから、自分のエサ場に侵入してきた魚がいたら
自分よりも大きかろうが、激しいアタックを食らわして追い払う。

アユのこの習性を利用したのが友釣りだ。

掛けバリを仕込まれたオトリアユを追い払おうと
野アユは執拗にアタックする。
すると、掛けバリが野アユに刺さり、
野アユはオトリもろとも釣り人のタモの中へ。

釣り上げられた野アユは
掛けバリを外されると同時に、ハナカンを通され
今度は自分がオトリとして川に放たれる。

しかし、野アユは自分がオトリであるとは思っていない。

いいエサ場を探して、川の中を泳ぎまわる。
秋に成熟して子孫を残すためには
とにかく食べ続けなければならない。
一心不乱に泳ぐ。

そして、ライバルの攻撃を受け
野アユもろとも釣り人のタモの中へ……。

背ビレや尾ビレが長く
鱗がきめ細かく、肌が艶っぽい天然アユは
姿形を見る限り、清流の女王と呼ぶにふさわしい。

しかし、その実態は、
目標に向かって突き進む、孤高の勇者である。

ぼくは、アユ釣りをしていて、ふと思うことがある。

アユみたいに強くなりたいと。

家族、仕事、病気、怪我、経済、社会……。

アユには悩みなどない。
悩んでいる時間などないのだ。

悩むよりも食べ、悩むよりも闘う。

前だけを、上だけを見て生きるはかない一生。

だからきっと
ぼくをはじめ、多くの人がアユという魚に惹かれるのだと思う。

(山根)