編集部のある神保町は
世界最大級の本の街。

出版社が軒を連ねている。

飲み屋も多い。

ただ、低迷を続ける出版業界を象徴するように
繁盛している店は大半が客単価3000円程度の居酒屋。
それより高い店は
よほど特徴がないかぎり、存続が難しくなっている。

一方、神保町から少し離れたところにある神楽坂は
こじゃれた飲み屋が多い。

坂の途中に毘沙門天があり
これより上には高級割烹が点在し
下には、しがない編集者でも入れる店が並ぶ。

以前一度だけ、
磯釣り界の重鎮に坂の上の素敵なお店に
連れて行っていただいたことがある。

昨夜は、久しぶりに大先輩と神楽坂へ。

いい店を知っているというので
後を付いて坂を上っていく。

毘沙門天より下の路地を入ると
ウッ、と尻込みしそうな高級料亭然とした門構えの店が……。

なんと、先輩はずんずん、その料亭に入っていくではないか。

「客単価2万円くらいだけど、いいよな」

と言っていたけど、あれは冗談じゃなかったのか。。。

灯篭に照らされた石畳の道を歩いていくと
喉がカラカラに乾いてくる。

このまま引き返そうかと思ったが
適当な言い訳が思いつかない。

暖簾をくぐると大きなイケスが
中にはマアジ、カワハギ、シマアジ……。

終わった。

給料日まで10日もあるが
今月はこれで文無しだ。

限りなく黒に近いブルーな気分で店内を進むと
何やら様子が妙だ。

いや、いつも行く神保町の安居酒屋と同じ雰囲気だ。

壁に貼られたチラシに
生ビール一杯180円の赤い文字が躍っている。

「ハハハッ、まんまと引っ掛かったな(笑)」
と先輩は高らかに笑う。

店の名は「竹子」。

どうやら、ぼくのような小心者を
驚かすための造りにわざわざしたようなのだ。

ちなみに、さんざん食べて飲んで
客単価3000円ナリ。

Mさん、素敵なお店教えてくれて
ありがとうございました!

(山根)